スペックだけではない、僕がカメラに求めるもの
- Sam Momota
- 4月21日
- 読了時間: 6分
写真好きの皆さんなら、一度は「どのメーカーのカメラが良いんだろう?」と考えたことがあるのではないでしょうか。
カメラ選びの基準は人それぞれですが、今回僕が長年メイン機としてCanonを選び、そして今も使い続けている理由について、少し個人的な経験も交えながらお話ししたいと思います。
1. キヤノンとの出会い:プロを目指した駆け出しの頃
僕が本格的にプロを目指し大学を卒業した頃、デジタル一眼市場で最も勢いがあったのがCanonでした。
ちょうどプロのフォトグラファーを目指して上京し、スタジオアシスタント(スタジオマン)になったばかりの頃で、現場には様々なカメラが持ち込まれていました。
当時、僕の職場のスタジオは某雑誌の専属のスタジオ事業をしていて、最初はそこに配属されました。デジタルとフィルムの仕事がほぼ5:5の割合で行われていて、まさに機材のるつぼ。
フィルムカメラから最新のデジタルバック、時には大判カメラ(バイテン、8x10インチと呼ばれる大型フィルムカメラ)まで、多種多様な機材に触れることができ、非常に勉強になりました。
経験豊富なフォトグラファーたちからは、それぞれの機材に関する深い話や、メーカーのプロサービス(プロ向けサポート)から得た情報、トラブルシューティングのノウハウなどを直接聞く機会が豊富にありました。
それは、今のSNSで断片的に流れてくる情報とは異なり、プロの経験というフィルターを通した、非常に質の高い、実践的な知識のシャワーでした。
数年が経ち、いざ自分もカメラ購入を検討し始めた時。
その頃のカメラメーカーについて言うと、Nikonはセンサーダスト(センサーにゴミが付着する問題)への対策がまだ途上という印象がありました。
Sonyはミラーレスで注目され始めていましたが、プロの過酷な現場でのタフさやシステムとしての完成度には、まだ未知数な部分が多いと感じていました。
スペックシート上の数値だけでなく、実際の信頼性や弱点、サポート体制などを総合的に比較検討した結果、当時の僕にとって最も「安心して仕事を任せられる、欠点が見当たらない」と感じられたのがCanonだったのです。

2. カメラ選びの哲学:スペックよりも大切なこと
正直なところ、写真の基本要素であるシャッタースピード、絞り、ISO感度が適切に設定でき、高画質なRAWデータで記録できるのであれば、どのメーカーのカメラでもある程度の写真は撮れます。
もちろん、メーカーごとに操作性や絵作りには特徴がありますが、私たちプロのフォトグラファーは機材の特性を理解し、それに合わせて撮影アプローチを最適化するだけです。
ですから、僕はカタログスペックの数値に過度にこだわることはありません。例えば、最新のオートフォーカス機能がなくても、別の方法でピントを合わせる技術はあります。
僕にとって最も重要なのは、
どんな状況下であっても「確実に仕事を完遂できるか」、
そのための信頼性があるかどうかなのです。その点で、キヤノンは当時の僕にとって最良の選択でした。
3. なぜ今もCanonを使い続けるのか?:実践的なメリット
では、なぜ様々なメーカーから魅力的なカメラが登場している現在も、僕はCanonを使い続けているのでしょうか。
理由は主に二つあります。
第一にユーザーが圧倒的に多いこと。 これは、特にトラブルが発生した際のリカバリーのしやすさに直結します。
例えば、慣れない海外の土地で撮影中に、万が一機材が故障したとします。
もちろん、故障しないのが一番ですが、最悪の事態は想定しておかなければなりません。
Canonであれば、世界中の多くの都市で、現地のカメラ店やレンタルショップで代替のボディやレンズを見つけられる可能性が、他のメーカーに比べて高いのです。これは、ユーザー数の多さ、流通量の多さの恩恵です。
例えば、機材調達が比較的困難な途上国のような場所であっても、ローカルのカメラ店で最低限の撮影を可能にするためのエントリークラスのボディくらいなら、CanonやNikonの製品は見つけられる可能性が他のメーカーより高いと感じています。
また、もし現地のプロフォトグラファーに助けを求める場合でも、同じCanonユーザーである可能性が高く、バッテリーを借りたり、レンズを一時的に融通してもらったりといった協力が得やすいかもしれません。
実際に、かつてフィジーで仕事をしていた際、一時的にSonyへの乗り換えを真剣に検討したことがありました。
しかし、もし現地で機材トラブルが発生した場合の代替機材の入手やサポート体制を考えたとき、そのリスクとダメージが大きいと判断し、最終的にCanonを継続することを選びました。
また、入手のしやすさで言うと、中古市場での選択肢の多さも、いざという時の助けになります。
第二に、プロの現場で長年培われてきた信頼性と堅牢性です。
長年使ってきて、その壊れにくさを実感していますし、万が一故障した場合でも、国内であればサービス拠点が多く、サポート体制が充実しているという安心感があります。
仕事で使う道具として、この「安心感」は非常に重要です。
4. 現代のカメラ事情と、その先にあるもの
もちろん、今のカメラ市場は非常に魅力的です。
Fujifilmの中判フォーマット(35mmフルサイズより大きなセンサーを持つシステム)がもたらす圧倒的な画質やAPS-Cフォーマットのコンパクトさとフィルムシミュレーション。
SONYの先進的なセンサー技術と動画性能。 Nikonの伝統と革新が融合したレンズ描写。 そしてCanon自身の強力なAF性能やRFレンズ群。 各メーカーが独自の強みを打ち出し、サードパーティ製レンズも純正に劣らない高性能で洗練されたものが増えました。 「住めば都」という言葉があるように、どのメーカーのカメラを使っても、深く付き合えばその機種なりの魅力が見えてきて、愛着が湧くものです。 同時に、隣の芝生が青く見えることもあるでしょう。 しかし、目覚ましい技術革新は、時に私たちをスペック競争へと目を向けさせがちです。 ですが、技術が進歩したからといって、必ずしも私たちプロの写真表現の価値が直接的に高まるわけではありません。 本当に大切なのは、スペック表の数字に一喜一憂することではなく、「その機材を使って、どんな写真を撮るのか」「自分たちが創り出す写真が、見る人の心を動かす力を持っているか」ということではないでしょうか。
僕にとってCanonは、長年の経験から最も信頼を置け、表現に集中するための「頼れる道具」です。
もちろん、これが唯一の正解ではありません。
大切なのは、自分自身の撮影スタイルや目的、そして「何を表現したいのか」という想いに合った機材を見つけることだと思います。
この記事が、皆さんのカメラ選びや写真との向き合い方について、何か少しでも考えるきっかけになれば嬉しいです。
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